i want,
……………
外の空気は意外にも冷たかった。
もう夏は目の前なのに。今年は春がなかった気がする。
あたしはお店の前の花壇に腰かけた。少し裏路地だからか、人通りは少ない。
一本向こうの道から、団体の笑い声が聞こえた。
こうやって一人になると、今が現実なのかどうなのかよくわからない錯覚に陥る。
友達と飲んで、遊んで、たまに学校に行って、バイトして。
そしてその中に、ヒカルがいて。
未だにわからない。
あたしの中の、ヒカルの位置が。
「酔ったん?」
頭上から降ってきた声に思わず顔を上げる。
そこには、今の今まであたしの頭にいたヒカルが立っていた。
「なんけ、その顔は」
「え?」
「間抜け面」
ははっと笑い、あたしの隣に腰かけた。
あたしは自分の頬に手を当て、気を引き閉める。
「抜けてきたん?」
「おぉ。煙草吸お思おて」
そう言うと、デニムのポケットから潰れた煙草の箱を取りだし、慣れた手つきでライターを操った。
「禁煙しんの?」
「今更じゃろ」
「中学から吸いよるけぇね」
「若気の至りじゃの。やめたらよかったわ」