i want,

明らかに苛々しているヒカルに、あたしは焦りを隠せずにいた。でも、だからと言って、何をどう言えばいいのかわからない。

「別に…ほんと、何でもないよ?」

努めて『普通』に振る舞って、あたしは食器を片そうと立ち上がった。
でもどこかで焦りが先走り、思わず手を滑らせる。

あっと、言う暇すらなかった。
ガチャンという鈍い音と同時に、ベージュのショートパンツに素麺の汁の染みがくっきりと浮かんだ。

「ごめ…っ」
「割れとらんけ?」

戸惑うあたしとは逆に、冷静にヒカルはあたしの側まで来る。
割れてない食器より先に、あたしの手を掴んだ。

手のひらの先からヒカルの体温を感じ、一瞬、心臓が止まるかと思った。

「怪我はしとらんか」

ヒカルは小さく息をついて、手を伸ばしてタオルを取り、あたしの膝の上に置く。

「アホけ、お前は」
「ごめ…」

怒ったため息ではなく、多分呆れたため息だろう。
ヒカルは握ったあたしの手のひらを、そっと離した。

息苦しさが、あたしを襲う。

「その染みは着替えな無理じゃろな」

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