i want,
ヒカルの視線があたしに落ちてくる。

反らせない。いつかのあの神楽に似た衝動。畏怖。

心臓が、痛い。

「…あおい、」

ヒカルがあたしの名前を呼んだ。
『あおい』。その声が、どうしようもなくあたしを締め付ける。

ヒカルの顔が徐々に近付いてきた。ヒカルの影があたしを覆う。
あたしはゆっくりと、瞼をおろした。

もう何も、考えられなかった。

…不意に閉じた瞼に光が射した。
あたしはゆっくりと瞼をあげる。

さっきまであたしの真上にいたヒカルは、立ち上がって視線を背けていた。

「…ヒカル?」

あたしもまた体を起こす。
ヒカルはあたしを見ないまま、ソファーに座って言った。

「…わり、」

ばつの悪そうなヒカルの声。急に現実に戻った感覚と、ズキッとする痛みを覚えた。

「…何で?」

何で謝るの?
悪いことだと思ったの?

あたしは俯いて、痛みに必死に耐えていた。

今、あたしが抱いた感情。
限りなくあの頃のものに近かった欲求、衝動。
ヒカルが欲しいと、幼いあたしじゃなく今のあたしが叫んでいたのに。

ヒカルは、そうではなかったのか。

「…あお、就職は地元?」

< 389 / 435 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop