i want,
ふと台所のカウンターを見ると、見慣れた赤い大きな箱があった。
大阪限定、たこ焼きプリッツ。
「おばちゃん、これ…」
「あぁ、ヒカル君よ。それこそ昨日、帰ったわぁって来てくれてからね」
…ヒカル、帰ってたんだ。
センスのないたこ焼きプリッツは、ヒカルらしかった。多分駅の売店で急いで買ったんだろう。
『一緒に帰るけ』
あれから、一度も連絡を取らずにいた。
ヒカルからの連絡もない。何も考えない様にしながら、今日に至っている。
ヒカルからも連絡がない理由も、考えない様にしていた。
『…わりぃ』
…どんな顔をして会えばいいのかも、わからないし。
さとの家を出て携帯を確認したら、メールが一通来ていた。綾からだった。
『そろそろ帰った?同窓会明日やね!楽しみ♪』
「明日…か、」
久し振りに皆に会えるのは楽しみだった。
でも同時に、そこにはヒカルもいるということで。
普通、に、出来るだろうか。
皆と同じように。
『あの頃』を 笑顔で、共有出来るだろうか。
生暖かい夏の空気が、絡み付く様にあたしの気持ちにまとわりつく。
振り払う様に、鞄をもう一度肩にかけた。