i want,
皆が予想以上に反応してくれたから、あたしは今更訂正も出来ずに、「うん、そうじゃね」と笑って誤魔化す。
ふと視線を動かした。
壁際の視線とはもう合わない。
ヒカルはビールを飲みながら、田口と談笑していた。
『好きにしたらえぇが』
…そうだよね。
ヒカルにとって、あたしの就職先なんかどうでもいい事。
地元に帰って、今みたいに会えなくなっても、別に。
所詮、それだけの。
「…よしっ!今日は飲もっかな!」
嫌な思考回路を断ち切るかの様に、あたしはぐいっと残っていたビールを飲み干した。
「おぉ!いくな、あお!」
「久しぶりじゃしね!ほら、皆も飲も飲もっ!」
「かーんぱーいっ!」と空になったジョッキを掲げて、店員さんにもう1つビールを頼んだ。
皆も盛り上がって、次々と乾杯をする。
笑ってる間だけ、騒いでる間だけ、全てを考えずに済んだから。
自分の気持ちとヒカルの気持ち。
きっと交わらない道を、今だけは見たくなかった。
飲んで、騒いで、忘れよう。
全て昔の事なんだって、甘い思い出に浸ってるだけなんだって、言い聞かせながらあたしはジョッキを口に運んだ。