i want,

呟く様に言うと、田口はふっと笑って「いいよ」と言う。

ごめんね、田口。
あたし、今でも田口に甘えちゃってるね。

『八槙が好きだった』

思い出せる。
田口の傘も、ココアも、雪の日も、全部。
思い出になってる、のに。

なのに、何で。

「わりぃ、」

…何であたしは、思い出に出来ないの。

ぐいっと今体を預けていた方と逆方向に力が働く。
あたしは思わずふらついたが、こける前に田口じゃない胸元に引き寄せられた。

痛くない衝動と、肩に触れている手のひら。

「俺のじゃけぇ」

視線を動かす。斜め下から見える顎のライン、鼻、睫毛、視線。全て、あたしがずっとずっと欲していた、

「…ヒカル」

ヒカル。

ずっとずっと、今でも求めている。
思い出になんて到底できない。
磁石と砂鉄の様に、ヒカルの全てにさらさらと引き寄せられる。どんなに痛くても、一方通行でも、それでも、求めてしまう衝動。

「ヒカ…」
「帰るぞ」

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