i want,
ひとつひとつ思い出す。
あたしにとってあの日の思い出は決して全て楽しいものではなかった。
思い出す花火の色、火薬の匂い。
でもそれらが全部痛いものでない理由も、思い出していた。
校庭の端。背の低い順に並ぶ鉄棒に、ヒカルは腰掛ける。
あたしはその前に、少し間を開けて立った。
「こんな小さかったかいのぉ」
「机と同じこと言いよるね」
ふっと笑い、足元の砂を爪先でいじる。
校庭の端。
皆の笑い声と花火を遠くに感じたこの場所で、あたしは初めて、ヒカルを素直に求めた。
『俺のもんでおってぇや、あお』
ヒカルの言葉。
声変わり途中のその声を、あたしは今でも、鮮明に思い出せる。
夏の暑い夜の空気。混じる火薬の香り。
ヒカルを求めて、止まらなかった涙も、全部はっきりと記憶に焼き付いている。
「…懐かしいの」
ヒカルが視線を落としたまま、小さく笑った。
あたしはその顔を上から見ながら、同じように微笑む。
…懐かしい。
全部、懐かしい思い出。
甘い痛みは、記憶の彼方にあるもの。
でも今感じる痛みは、決してそれだけではない。