i want,
階段をひとつひとつ上がる。
各階には各階の思い出。
校舎はあの頃と何一つ変わっていない。
「小学校より、何か覚えちょるね」
「そりゃそうじゃろ」
小学校よりもっと色々あった。
中学という社会。
幼いながら、もがいて、抗って、必死に立っていたあの頃。
ヒカルが離れていくのが怖くて、変わらないで欲しくて、あたしは必死に、変わっていった。
「覚えちょる?図書館のとこ」
ヒカルが少し前を歩きながら言った。
背中を見ているから、表情は見えない。
「…覚えちょるよ」
忘れるわけがない。
図書館と、特別教室を繋ぐ渡り廊下。
校庭の野球部が見下ろせるそこで、紙パックのジュースを持って、いつもヒカルを待っていた。
ヒカルとあたしの、二人だけの場所。
「行ってみるか」
ヒカルの提案に、あたしは小さく、頷いた。