i want,
……………
「…あ、」
ヒカルの声と、ガチャンというあたし達を拒む音が誰もいない校内に響いた。
「鍵がかかっちょる」
特別教室側から渡り廊下に入ろうとしたら、ちょうどそこの入り口だけ鍵がかかっていたのだ。
「なんけ、ここだけかけよって」
何度かヒカルがドアを動かしてみたものの、固く閉ざされたそれはあたし達を受け入れることはしなかった。
「拍子抜けじゃね」
あたしは軽くため息をついて言った。
ここは、あたし達にとって特別な場所。
そこに受け入れてもらえなかったということが、現実と思い出の境界線をより濃くした気がした。
あたし達の時間が流れていた場所にいるからか、今と過去の境界線がふわついていたが、今はっきりと見える。
この開かないドアが、今と過去の境界線。
…開かないままの方がいいのかもしれないけど。
開けてはいけない、パンドラの箱と同じ様に。
「あっちは…開いちょるか」
そう思った矢先、ヒカルが呟いた。
顔を上げヒカルの視線を辿ると、渡り廊下の向こう側のドア。
そこは3分の1開いていて、鍵がかかっていないことが見てとれた。