i want,
「待っちょって」
「え?」
「あっち回って、ここの鍵開けて来るけぇ」
ヒカルはそう言って、階段に向かおうとした。
あたしは反射的にヒカルの服の裾を掴む。
「…あお?」
服を掴まれたヒカルは、少し不思議そうにあたしの名前を呼んだ。
あたし自身、どうしてヒカルを止めたのかわからない。
ただ、何か、不安が。
そんなあたしの気持ちが表情に現れていたのか、ヒカルは眉を少し下げて笑い、あたしの頭にぽんっと手のひらを乗せた。
頭のてっぺんから、ヒカルの体温を感じる。
「すぐ行って来るけぇ。待っちょって」
眉間にしわを寄せてヒカルを見上げる。
捉えたヒカルの目元があまりにも優しかったから、あたしは思わず泣きたくなった。
ヒカルがそっとあたしの手を離す。夜の空気が手のひらを通り抜け、それが思ったよりも冷たい。
ヒカルはあたしに背を向けて、階段をかけ上がった。その音が遠くなるにつれて、言い様のない寂しさが襲う。
あたしはゆっくりと、その場にしゃがみこんだ。