i want,
ヒカルは渡り廊下の手すりに手をかけ、夜の方を向いたまま話し始めた。
「俺はずっと、忘れちょると思いよった。お前と別れて…引っ越して、新しい場所で新しい環境で、あおとの事も含めて…こっちでの事は全部、思い出じゃって思っとった」
ヒカルがいなくなった日。思い出すと、未だに胸が痛む。
あたしは少し視線を落とした。
「大阪で働き始めて、それこそ新しい生活ん中…知り合いも新しい奴らばっかで、彼女だっておった。色んな子と付き合って、正直…お前のこと、思い出さん日も多かった」
ズキン、と、深く胸が鳴る。
ヒカルの今までの彼女事をヒカルの口から聞くのは初めてだった。
その単語が、嫌になる程痛い。
目を閉じて、その痛みに耐えた。
「もう思い出すこともないじゃろなって、そう感じよった時やったな…神野と再会したんは」
綾から告げられたあの日を思い出す。さとが、ヒカルと会っていたと知った日。
ヒカルへの想いの蓋が少しだけ開いた日。
「綾から…聞いてた」
あたしが呟くと、ヒカルはふっと笑って「ほぅけ」と言った。