i want,


「苦しくない?」
「ん、だいじょぶ」

着物の帯をぐっと締める。
真っ赤な衣装を着ると、自然と背筋が伸びた。

「あおいちゃんは背ぇが高いねぇ」
「そう?あたしより高い子いるよ」
「最近の子は発育がええんじゃろうねぇ。この衣装、いつも裾上げせにゃいけんのんじゃけど、あおいちゃんにはぴったりじゃあ」

恵姉のおばちゃんが裾を整えながら言った。
そう言われると、ちょっと嬉しくなる。

綺麗な着物。
あたしじゃないみたいなあたし。

緊張が、にわかに増す。

「恵姉」
「ん?」
「舞台の上で、何考えちょったらええかねぇ。頭、真っ白になりそうやわ…」

鬘の上から、冠を乗せる。
綺麗に整えてから、恵姉はあたしの肩をぽんっと叩いて言った。

「世界の中心は自分じゃって思っちょきぃ。自分が一番綺麗。みんな自分に見とれちょるって」
「えー!図々しいじゃ」
「だぁいじょうぶ。あお、めっちゃ綺麗じゃけぇ」

「ほら、見てみぃ」、恵姉が全身鏡をあたしの前に持ってきてくれた。

伏せた目をあげる。

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