i want,
「どう?」
最後の仕上げとして、恵姉があたしの唇に赤い紅をひく。
着物の赤と唇の紅、散りばめられた金色がくらくらする。
「…あたしじゃないみたい」
鏡の前に立つのは、あたしじゃなかった。
長い黒髪も豪勢な着物も、全部全部あたしじゃない。
呆然としているあたしに向かって、鏡越しに恵姉が言った。
「境内の上では、あおは姫じゃけぇ。どれだけ傲ってもえぇけぇね。忘れんときぃ、」
おばちゃんが、2つの鈴を持ってきてくれた。
しゃらんっと鳴るそれを、恵姉が手渡す。
「主役はあおじゃよ。その瞬間の世界は、あおじゃ」