i want,
……………
境内に続く廊下。
前の舞の音楽を聞きながら、自分の足下だけを見つめていた。
神楽ももう終盤。あたしを含めて、残りの舞はあと3つだ。
観客も境内の周りにびっしりと詰まっている。
こんな大勢の人の前に出るなんて、初めてなんじゃないだろうか。
ドキドキする。
でもそれが、緊張だけじゃないこともわかってた。
不意に拍手が耳に届いた。
思わず顔を上げる。
前の人の舞が終わったのだ。
廊下の先に舞い終えた昌兄の烏帽子が見える。
それを合図に、あたしは足を進める。
すれ違い様に、昌兄に肩を叩かれた。
「頑張りぃ」
顔を上げると、昌兄の笑顔。
あたしも小さく微笑んで、それからすっと、背筋を伸ばした。
もう深呼吸は必要ない。
心地良い緊張感が、着物の下の体内に駆け巡る。
…太鼓のリズムが変わった。
笛の音が曲を変える。
あたしはただ前だけを見て、ゆっくりと摺り足で舞台へと進んだ。