i want,


…境内に出た瞬間、場の空気が変わるのがわかった。

今まで黒が基調だった場面に、突如現れた赤い舞い。


手に持った神器を掲げると、舞いの始まりの鈴の音が鳴り響いた。


空を横切る赤い裾。
長い黒髪が風を作る。

頭で考えてはなかった。
体がただ、舞を覚えていて。



『主役はあおじゃよ』



舞いながら流す視線の先に、沢山の顔が見える。

お母さんもいた。近所の友達もいた。真依達もいた。
みんなただ、赤い神楽を見つめている。


傲ってもいいのだろうか。

この夜の、この瞬間の世界はあたしだと、自負してもいいのだろうか。


今この闇を、この群衆を、このかがり火を。

支配しているのはあたしだと、思い込んでいいのだろうか。

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