i want,
誰も見なければいいのに。
誰も見えなければいいのに。
その視線はただ、
あたしにだけ向けられてればいいのに。
…舞の終わりの太鼓が鳴った。
沢山の拍手の中、神聖な境内を後にする。
最後に垣枝を見た。
視線を向けたまま、彼は拍手をしていなかった。
渡り廊下に戻る。
音楽が鳴り止む。
自分の世界が終わり、あたしは足の力が抜けてその場にへたりこんだ。
「あお、お疲れ!」
「あらぁ、緊張したんじゃろ」
そんなあたしに、恵姉やおばちゃん達が手を差し伸べる。
ゆっくりと立ち上がりながら、鳴り止まない自分の胸の鼓動にだけ耳を傾けていた。
あの衝撃。
あの焦燥。
あの体内を沸き上がらせる様な感情。
初めてだった。
あんなに何かを、欲しいと思ったのは。
形にならない、何かを。