i want,
……………
「遅れましたぁ…」
教室の後ろのドアをゆっくり開ける。
そっと開けたつもりなのに、その音はがらがらと教室中に響き渡った。
「矢槙かぁ、何しよった?」
教卓の前に立つのは大川先生。四年生からの担任だ。
「いや、さくらんぼ…」
「食べよったんか」
「すんません…」
「もうええ、座れ座れ」
半ば呆れ気味に手をはたはたさせて、あたしを席に促した。
教室に笑い声が響く。
「あお、おはよっ」
つんっとあたしのスカートを引っ張ったのは菊地翠、通称みど。
笑うみどに、あたしも苦笑いで舌を出してみせて空いている席に向かった。
「さくらんぼ食って遅刻って、間抜けすぎじゃあ」
隣の席でお腹を抱えて笑う少年を一瞥して、「うっさい!」と一撃。
それでも笑い続ける笑い上戸の彼は、神野覚。みんなは『神ちゃん』と呼んでいたけど、あたしは名前の『さとる』から『さと』と呼んでいた。
『神ちゃん』というあだ名がついたのは三年生の時。あたし達は、一年生から同じクラスなのだ。