i want,
……………
ざわめきと祭り囃子が遠くに聞こえる。
背にした山からは小さな虫の音。
現実と夢の狭間にいる様な気分で、境内裏の石段に腰かけていた。
空を仰ぐと、薄い雲に覆われた月が見える。
月が高く見えるのは、雲が低いせいだろうか。
手を伸ばしても届かないことくらいわかってる。
それでも伸ばしたいと思える程に、手に入れたいと思うことはあるのだろうか。
…さっき覚えた感情に、あたしは手を伸ばしたいのだろうか。
目を閉じると浮かぶ視線。
心地いい畏怖と欲望。
もう一度、もう一度感じたい。
この衝動は、何?
「こんなとこおったんけ」
急に現実に引き戻される声に、驚いて目を開いた。
遠くの灯りを背に立つのは、紛れもなく今求めていた、
「…垣枝」。