i want,
「上杉らぁが探しよったぞ」
驚いているあたしの隣に、無遠慮に腰かける。
二人の間には丁度いい距離感。少し安心して、心の中で深呼吸した。
「もうちょいしたら行くよ」
「お前、髪の毛どこやったんけ」
「は?」
「さっきまで長い黒髪振り回しよったわぁや」
「振り回しよったとか言わんでくれる?鬘に決まっちょるじゃろ」
「そりゃそうじゃの」、ははっと笑う垣枝の横顔を見る。
いつもの垣枝。
さっきみたいな、畏怖も衝動も感じない。
ただの男の子だった。
それは、あたしが求めていたものじゃなかった。
「それ、なんじゃ?」
垣枝があたしの横にあった袋を指差した。
あたしはそれを差し出す。
「舞のご褒美で、お菓子の詰め合わせ。いる?」
「こんなんで踊ったんけ!安いのぅ」
「なわけないじゃろ!図書券ももらったもんっ」
「おっきいお菓子ダメやけぇね」、そう言うあたしに、「ケチやのぅ」と口を尖らせながら、垣枝はチュッパチャップスを選んだ。