i want,
顔が紅潮していないことを願いながら、ゆっくりと振り向いた。
「…名前?」
「お前いっつも、俺のこと名字で呼びよるじゃろ」
「あたしだけじゃないじゃ、」
「お前だけじゃ。他の奴等は、みんな『垣』って呼ぶけぇの」
言われてみればそうだった。
垣枝のことを『垣』以外で呼んでるのは、あたしが知る限りあたしと田口だけ。
「…じゃから何?」
「俺の名前、忘れちょるんじゃなかろうか思ってな」
「覚えちょるいね」
挑発する様な視線。
あの境内での畏怖を垣間見た気がする。
何故かどこか緊張しながら、口を開いた。
「ヒカル、じゃろ」
…ヒカル。
呼び慣れない名前に、心臓の速度が速まる。
そんなあたしを面白がる様に、あの少し見下した様な笑顔で垣枝は言った。
「…それでえぇよ」
固まったあたしの横を、意味深な言葉を残したまま通りすぎる。
すれ違い様に感じた鳥肌は、確実にあの時の衝撃だった。