i want,
遠くの夜
……………
「舞の子じゃあ」
そう言われるのにもいい加減飽きてきた10月の終わり。
一気に寒くなったこの頃。ようやく掘り出してきたマフラーを首に巻き付けて、秋風を浴びていた。
あたしが予想していた様なバカにした態度で接してくる子はいなかったけど、小さな学校だからか、神楽の後、「舞の子」と指差されることは少なくなかった。
本格的な秋の到来と同時に、変わっていくのは景色だけじゃない。
「あお!」
下駄箱の前で手を振るのは誠。あたしは立ち止まって振り向いた。
「一人?有希は?」
「今日エレクトーンじゃけぇ、おばちゃんが迎えに来た」
「他の友達は?」
「さぁ?」
ふーん、あんまり興味のなさそうな返事をして、「帰るんじゃったら乗ってく?」と誘ってきた。
お前が運転するのかよと突っ込みたくなったが、そこは堪えて「うん」と答える。
校門前、あたし達は並んで背をもたれた。
風が冷たくて、思わずマフラーを口元まで引き上げる。