氷の女王に口付けを

大丈夫だといいが、あの衝撃じゃとてもじゃないが自力で立つことなんて―――


『おや? 立ち上がりましたね』


アナウンサーの言葉に、視線をテレビに向き直す。


ウソだろ。本当に立ってやがる。


関係者に笑顔を振りまけ、練習を切り上げてバックヤードに下がる。


あのまま試合を続けるのか? まさか、いくらなんでも無理だろ。


六分間練習を終えて、選手達が次々と戻ってくる。


最終グループの一番滑走者は、ミューにぶつかってきたあの選手だ。


名前がコールされると同時に、会場からブーイングが巻き起こる。


そりゃそうだ。あんなあからさまにぶつかって、平然と一人だけ練習していたんだ。


「終わったな」


演技が始まりジャンプを決めても、誰一人拍手をしない。
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