氷の女王に口付けを
「僕、タクさんみたいになりたいんです」
「え? 俺に?」
「選手によって向き不向きの曲ってあるじゃないですか。その人のイメージというか。だけどタクさんはどんな曲を使っても自分の物にして、凄いなって思うんです。
それに振り付けも曲にピッタリで、格好良くて。僕佐藤先生に聞いたんですけど、昔から振り付けは自分で作ってたんでしょ? それって本当に凄いというか、んーと、なんて言えばいいんだろ」
さっきまで泣きそうだったのに、俺の話になるとパァッと笑顔になって饒舌に喋りだす。
褒められているんだろうけど、なんだか恥ずかしくなってきて、照れ隠しに後頭部を掻いていた。
俺ってそんな凄い人じゃないんだけどなぁ。
「今期のプログラムなんか今までの何倍も良くって、フィギュアというより一つの物語を観てるっていうか。タクさんみたいな演技がしたいって心から思ったんです。
あ、もちろん今までの演技も素晴らしかったんですけど、今期は特に凄いっていうか。だから……」
僕の振付師になってください。
―――あんな真っ直ぐな瞳で言われたら、断りづらいじゃないですか。
嗚呼、龍君。君は本当に勘違いしているよ。