氷の女王に口付けを
一か月ごとに指輪が変わっていたからよく覚えてる。
有香さんは眉を吊り上げて不服そうに唇を曲げているが、俺の理由にも納得しているらしい。
美優は普段からアクセサリーの類を付けないけど、有香さんは気付いていないようだ。
良かった。なんとか逃げ切れそう。
「そう言われればそうだけど。だけどあの子って普段からアクセを付けてなかったような……」
「そ、そうだ! フリーの振り付けでラストをちょっと変えたいんですけど!」
「え? 嗚呼わかった。どうするの」
上手く話をすり替えられた。
なんとかこの場は凌いで、無事に有香さんを帰すことが出来た。
大事な試合前に、余計な面倒は持ち込みたくないものだ。
全日本まで残り一週間。
三杯目のコーヒーは、どことなく甘みを帯びていた。