氷の女王に口付けを
振り付けと契約
「やはり振付師をつけるべきか」
練習中、なんの脈略もなく本田コーチが言いだした。
昨シーズンはほとんど俺が考えた振り付けをやっていて、本田コーチの前のコーチである佐藤先生の元にいた時も、俺主体で振り付けを考えていた。
大抵の選手はコーチと振付師は別につけるか、コーチが振り付けを考えるのかのどちらか一つだ。
振り付けを自分で考える選手は、珍しい方だと思う。
元々俺はあまり振り付けを覚えられる方ではなかった。
子供の頃は勝手に振り付けを変えたりして滑っていたので、よく佐藤先生に怒られていたっけ。
あまりに俺が振り付けを覚えないもんだから「なんならタク君が考えたらどうですか?」と先生に愛想を尽かされたのがきっかけで、それ以降演技の振り付けのほとんどを俺が考えるようになった。
自分で考えた振り付けを忘れるなんてことはなく、好きなようにやれるから今までこのスタイルを貫いていた。
本田コーチになった時もそれは変わらず、ましてこのコーチは振り付けなんてやったことがないとスッパリ言い切るもんだから、昨シーズンは本当に大変だった。