氷の女王に口付けを
それに、美優クラスのスケーターを指導している有香さんのことだ。
俺みたいな三流スケーターの振り付けなどしてくれないかもしれない。
いや、してくれないと思う。そっちの確立の方が絶対高い。
絶対高い……。
「いいわよ」
リンクサイドを挟んで行われた交渉は、ものの数秒で成立した。
頭の中であらゆる交渉材料を用意していたのに拍子抜け。
けど、どうしてこうもあっさり承諾してくれたんだ?
「君とは一度会ってみたかったのよ。クレイジーボーイのタク君」
昔のあだ名が飛び出してきて、身体が一瞬硬直した。
有香さんはフェンスに両腕を置いて、ジッと俺を見つめてくる。
「初出場の世界ジュニアで二つの3Aと二種類の3-3に挑んだ奇才。その鬼構成と己の限界を軽く超えた無謀な挑戦から、海外メディアに『クレイジーボーイ』と呼ばれた日本人選手。
当時のジュニア界ではちょっとした有名人だったタク君の振付師に任命されるなんて、光栄の極みだわ」