氷の女王に口付けを

この人、褒めているのか貶しているのかわからない。


だけどこの人の言っていることは全て事実。


あの頃は無我夢中でかなり無茶をしていた時期で、個人的には忘れてしまいたい記憶なのだが、この人の心の中には根強く印象が残っているようだ。


だけど、当時の俺のあだ名を覚えている人に会ったのは久しぶりだ。


羽生さんには未だに「クレイジーボーイ」を訳した「クレ坊」というあだ名で呼ばれてはいるけど。


「あ、ありがとうございます」


苦笑しながら頭を下げると、有香さんは不気味に微笑んだ。


「だけど私もなにかと多忙でね。ただでこの仕事を引き受けるつもりはないわ」


やはりそうなりますよね。


等価交換ということだけど、有香さんは俺になにを求めるつもりなのだろうか。


お金とか? どうしよう、俺に払えるお金なんてないよ。


本田コーチも前のコーチの口利きでタダ当然で指導してもらっているくらいだ。
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