氷の女王に口付けを
膝が柔らかい選手はどの競技でも有利だといわれているが、フィギュアではジャンプ時にその効力を最大限に発揮する。
エネルギー効率が良いので僅かな力で高いジャンプが跳べ、着氷の衝撃を膝がクッションの役割を果たし、猫のように柔らかく降りることができる。
ジャンプの衝撃が少なければ着氷が乱れることもなく、セカンドジャンプが跳びやすくなる。
それになにより、怪我をしにくい。
羽生さんが俺の視線に気づいたようで、にこやかに微笑みながら近づいてきた。
その顔を見えればわかる。調子はすこぶる良さそうだ。
「綺麗なコンビネーションでしたよ。いつの間に跳べるようになったんですか?」
「世界選手権が終わってから本格的にやり始めてね〜。セカンドに三回転を入れ始めたのは今月に入ってからかな?」
特徴的な間延びした声で答える。
練習を始めて四カ月足らずでこの完成度とは……やっぱり羽生さんは凄い。
膝の柔らかさは天性的なもの。努力で得るのは難しい。