氷の女王に口付けを

いつもなら少し寂しいと感じていたが、今年に限っては助かった。


それなのに、よりにもよって同じ大会に被るなんて……。


「いよいよ始まったね。調子はどうですか、タク選手?」


美優の右薬指にはあの指輪。


後生大事に付けちゃって。俺があげたやつは一度しか付けなかったくせに。


俺は無言で歩き続ける。


美優は不思議にそうに俺の顔を覗いてくるが、それも無視する。


なにやってんだ俺。これじゃあ拗ねてるガキじゃないか。


「タクちゃん? 具合でも悪いの?」


「悪いけど疲れてるんだ。静かにしてくれないか」


「疲れてる時こそ笑顔笑顔! ナーバスになるのは分かるけど、そんな辛気臭い顔してたら表彰台が逃げてくぞ!」


美優が立ちふさがり、人差し指を使って俺の両頬を吊り上げる。
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