氷の女王に口付けを

一種の賭けだが、ギャンブル好きのあいつのことだから上手くチャンスに変えるだろう。


元々ショートは得意な選手だ。


滑走順などあいつからしたら特になんともないだろうが、今回は様子がおかしい。


調子は決して悪くない。寧ろシーズン初戦にしたら良いくらいだ。


なんというか、雰囲気が黒い。


暗いではなく黒いのだ。


一体なにがあったんだ? 演技に支障をきたさなければいいが。


六分間練習が終わり次々と選手がリンクサイドへ戻る中、タクはただ一人リンクに残る。


入念にジャンプのタイミングを計るように滑っているが、その表情はどこか浮かない。


緊張ではない。なんだあの表情は?


黒の衣装に身を包んだタクが、俺の元へ近寄る。


「どうした? 体調でも悪いか?」
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