危険ナ香リ
「なにも要りません」
佐久間先生は“馴れている”から、こんなことにいちいち意識するわけない。
なんだかあたし1人意識しちゃって、バカみたいだ。
ちょっとムカついたから、素っ気ない言い方をしてしまった。
「今なら我が儘言っても聞いてやるぞ。オモチャ屋にでも入るか」
「……あたしは何歳児ですか」
得意の意地悪なんかを言って、喉を鳴らせて笑った佐久間先生は、いつの間にかガムを食べていた。
余裕な姿を見せつけられると、いい気はしない。
だから始終、あたしは唇を尖らせていた。
「拗ねてるとますますガキに見えるぞ」
「拗ねてませんっ」
「本当になにも要らないのか?今ならオモチャ屋に戻れるぞ」
「なんでオモチャ屋なんですか!?あたしはガキじゃありません!」
「お。怒った」
こんの人は……!
握った拳を怒りでふるふると震わせる。
「なんで佐久間先生が恋人にしたい男ナンバーワンなのか、理解できません」
理解したくもありません。
ぷいっとそっぽを向くと、ちょうど車がコンビニの駐車場に入った。
「俺にも理解できないよ」
シートベルトをはずす音がやけに大きく聞こえた気がした。
振り向くと、佐久間先生はすでに車から降りてしまっていた。
それを見て、あたしも急いで降りた。
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