危険ナ香リ



 そう叫んだ直後。


 どこかにある携帯電話が、ふるえている音が耳に届いた。


 ピタリ、と動きを止めた佐久間先生は、“悪い”と言って携帯電話を取り出した。


 カチカチと携帯電話をいじくる様子を見ると、どうやらメールが届いたらしい。




「……清瀬。今日はもう帰ったほうがいいかもしれない」

「え?」




 ため息をひとつはいて、携帯電話を閉じた佐久間先生。


 さっきと、顔つきが全然違っている。


 ……なにか、あったのかな。




「葛西が」

「柚乃ちゃん?柚乃ちゃんがどうかしたんですか?」

「……泣いてるらしいんだ」




 え!?


 柚乃ちゃんが……いつも明るい柚乃ちゃんが泣いてるなんて。


 あたしはそれを聞いてまず、最初に驚いた。


 それから“有り得ない”と思った。


 だって柚乃ちゃんはいっつも笑顔で、泣き顔なんか見たことないし、泣くようにも見えないから。


 目を見開いて佐久間先生を見ると、先生はあたしを見ずに車を発進させた。




「一旦俺の家にカバンとりに戻るけど、清瀬は中に入らなくていいからな」

「なんでですかっ」

「さぁな。美波がそう言ってんだよ」




 なんで。


 どうして。あたしは柚乃ちゃんが本当に泣いてるのか知りたい。


 泣いているのであれば、なんで泣いているのか理由を知りたい。


 ……知りたいのに、なんで。




 頭の中に“仲間外れ”なんて言葉が浮かんだ。




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