危険ナ香リ
あたしの目を見た飛鳥くんの表情に、色は見えない。
なにを思っているのか、分からない。
「場所、変えようか」
ただ、その言葉はまるであたしの言いたいことを理解しているようだと思った。
頷いて、飛鳥くんの後を追う。
その背中は振り返ることも、遠ざかることも、近づくこともなかった。
一定の距離を保ちながら歩いているのは、きっとあたし。
きっと、この距離があたしが思っている、飛鳥くんとの“距離”。
1人くらい余裕で通り抜けられそうなこの距離が、あたしと飛鳥くんとの“心の距離”。
ガコン、と缶が落ちた音が響く。
温かいミルクティーを手にして、それをあたしに押し付けるようにして渡す、飛鳥くん。
戸惑っていると、あたしに背中を向けたまま、飛鳥くんは口を開いた。
「外、寒いだろうから、それ持ってて」
玄関は、電車組の人達で溢れかえっていた。
校舎の中には、話す場所がないと思ったんだろう。
実際、静かに話せる場所なんて、学校の中にはない。
外にでる飛鳥くんの背中に、あたしはまた距離をおきながらついていった。
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