危険ナ香リ




「なにそんな顔してんだよ。清瀬さんだって祐のこと好きなんだろう?両思いじゃん」




 “そんな顔”って、どんな顔?


 自分の状態が、よく分からない。


 ……足下がぐらつく。

 だけどなんとか立っている。


 あたしが分かる自分の状態といえば、それぐらいだった。




「……な、んで、そんな嘘つくの……?」

「嘘じゃないって」

「だって、あたし、2人がキスしてるとこ、見て」

「キスなんて、好きじゃなくても“恋人”なんだからできるって」




 ……好きじゃなくても“恋人”なら、キスはできるものなの?


 分からない。


 付き合うって経験がないあたしには、そんなこと分からない。


 だけど。




「そんなの、最低だよ……」




 そう言うと、飛鳥くんは悲しそうに笑った。




「そんな最低なことをさせてるのは、清瀬さんなのに?」




 なにを言っているのか、分からない。


 理解できない。




「全部、好きな人を忘れるためにしてることなんだよ」




 何度、祐の好きな人があたしだと言われても、それを信じることはできない。


 あたしの中ではすでに、“祐の好きな人は美咲ちゃん”だと刷り込まれているから。


 ……黒いペンで大きくかかれたものを、いまさら書き換えろと言われても無理な話だった。


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