危険ナ香リ


 目に涙が溜まって、今にも零れ落ちそうな時、佐久間先生が目を細めた姿がかろうじて見えた。


 その後、涙が零れるとほぼ同時に、椅子がギシッと音をたてる。






―― コンコン






「せんせー。いるー?」

「鍵かかってるよ」

「あれ。本当だ。でも中電気ついてるじゃん。いるんじゃね?」

「消し忘れとかあるじゃん。もし中にいたとしても、無視するわけないしね」

「まさか、中で生徒と2人っきりだったりしてっ」

「あはは。そんなのマンガじゃん」

「だよねー。仕方ないや。絆創膏くらい誰か持ってるよね」




 いないと分かって、去っていく足音が聞こえる。


 その音を聞きながら、佐久間先生の着ている白衣をぎゅっと掴んだ。




―――― タバコのニオイがする。




 大嫌いなそのニオイに誘われて、涙がどんどん零れ落ちていく。


 佐久間先生の胸に顔をうずめて、声を殺して泣いた。


 佐久間先生の長い腕が、しっかりあたしを抱き留めているから、とても温かかった。




「俺はそのままでいいと思うよ。あと、できるなら、もっと自分をさらけ出せ」




 小さな声も、こんなに近くにいるとよく聞こえる。


 低い声に、なんだかとても安心した。




「……鍵、閉めといてよかった」




 今のはきっと、佐久間先生の独り言。


 その独り言に、頷きそうになってしまう。




 今日は抵抗する理由がなにもないせいなのか。


 大人しく、佐久間先生に抱きしめられていた。




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