危険ナ香リ


 通り過ぎて、また前を歩く佐久間先生の背中を見つめて、ちょっと悲しくなった。


 ……やっぱり自分から行かなきゃだめなんだって、分かってる。


 だけど足を踏み出す勇気が出てこなくて、“佐久間先生が隣に来てくれないか”と期待する方向に思考が向かってしまう。


 あたし、だめだめだ。




 相変わらず、不安定な距離を保ったまま歩いていくあたし達は、周りからどんな風に見られているんだろうか。


 少なくとも“そうゆう”関係には見られていないことは間違いなかった。




「あと、なにか見たいところとかあるか?」




 佐久間先生がそう聞いてきたのは、ご飯を食べ終わったちょうどその時だった。


 見たいところ……。うーん。


 頭の中で見たいところについて考えていると、不意に佐久間先生が手をのばしてきた。


 その手があたしの口元にくっついて、なにかをぬぐい取った。


 それを自分の口まで運んで、舐める姿を見て、あたしは赤面せずにはいられなかった。




「な、なにも舐めなくても!」

「直接は舐めてないぞ」

「そうですけど……。でも、ついてるよって一言いってくれるだけでよかったのにっ」

「そんなのつまらないだろ。どうせなら、清瀬をいじりたい」




 いじってもらわなくて結構です!!


 もう、先生のバカっ。意地悪っ。


 暖房の熱さも手伝って、なんだか暑くなってきたあたしは、ちょっとでも体を冷やすためにジュースを飲んだ。


 佐久間先生は、いまだに楽しそうに笑っていた。




 今なら、周りから見たら少しは“そうゆう”関係に見えるかな、なんてこっそり思った。




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