危険ナ香リ
「……寂しかった、です」
声に出して、やっと理解した気がする。
あたしは、寂しくて、その寂しさを埋めたくて……佐久間先生に話しかけたんだってことを。
「……悪かった」
「え?」
「手ぐらい繋げばよかったな」
「別に手なんて……」
「じゃあ、並んで歩けばよかった?」
そう聞いてくる佐久間先生になにも返せなかったのは、“はい”と返事をすることがおかしいように思えたからだった。
だって、はっきりとそう言ってしまえば、なんだか嫌味に聞こえてしまいそうだったから……。
それに、並んで歩けなかったのは、あたしの“守り癖”の所為だと、思い込んでいたから。
あたしの沈黙を、肯定だと受け取った佐久間先生は、小さく息をはいた。
「“ロリコン”とか“教師”とか……清瀬の姉さんが俺に向かって言ってたよな」
急にそんなことを言い出したことを、追求するつもりはなかった。
ただ黙って、佐久間先生の言葉に耳を貸す。
「そうなんだよな。周りからしてみたら、お前と歩いていたら俺は“ロリコン”に見られるんだよ」
まるで独り言だった。
不意に、あたしの存在を忘れてるんじゃないかって、ちょっとだけ心配になったりした。
「そう思ったら、なんだか周りの目が気になりだして……。そしたら変なことに、後ろ指さされてる気分になった」
横顔を見ると、なんだか少し苦しげに見えた。
「“お前は教師だろ”って、言われてるように思えて、嫌になった」
……不思議だった。
佐久間先生が、こんな苦しげな表情を見せるなんて、不思議だった。
その表情を見て、なんだか佐久間先生が弱く見えて、不思議だった。
そしてなによりも不思議なのは。
―――― この、弱い佐久間先生を、慰めたいと思う自分だった。
.