危険ナ香リ




「向かい合うと普通なんだ。ただ、清瀬の姿が見えなくなってからいきなり周りの目が気になりだすんだよ。どうなんだよ、これ」




 慰めたい。


 でも慰め方が全然分からない。


 それに、あたしより年上の、大人の人を慰めるだなんて……佐久間先生のプライドに傷がついちゃうんじゃないか、心配になった。


 そんな心配をするあたしは、とっても失礼な奴に思えた。




「……って、悪い。なんでこんなに言い訳がましいこと言ってるんだろうな」




 はあ、と大きくため息をはく佐久間先生の横顔が本当に苦しげで、あたしは思わず目を細めた。


 いつもとは違う佐久間先生に、なんだか不思議な気持ちを抱いた。


 その気持ちがどうゆう気持ちなのか、全然分からなかった。


 そんな中で、胸にこみ上げてくる切ないほどの想いに堪えきれずに、あたしは手をのばした。




―――― のばした手は、佐久間先生の服を軽く掴んだ。




「……手、繋ぎたい、です」




 佐久間先生に、触れたくなった。




 それは慰めるためでも、寂しいからでもなくて、ただ単純に触れたくなっただけだった。


 我が儘で空気を読めない奴だと、笑われてもいいから。


 ……触れたい。


 自分にこんなことを言う勇気があったのかと驚くことはなかった。


 ただ、思うがままに従っただけだった。


 こんなあたしを見る佐久間先生の顔をなんだか見ることができなかった。


 だから、今、佐久間先生がどんな顔をしているかなんて、分からなかった。




 ……ただ。




「……ん」




 微かに笑う気配と、大きな手が重なる感触はわかった。


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