危険ナ香リ
どうやらあたしは、この懐中時計が相当気に入ってしまったらしい。
ブレザーの内ポケットにこれを入れていたのが、その証拠だった。
なんで? ……そんなの分かんない。
「……ねぇ、恭子」
「……うん?」
まだ吐き気がかすかに残るあたしを膝枕なんてしてくれている柚乃ちゃんが、声をかけてきた。
小さな声で反応すると、柚乃ちゃんがあたしの髪に触れた。
「さっき、いつから起きてた?」
「……いつからって……」
「なにか、変なこと聞いたりしなかった?」
変なこと……。
“安藤は、清瀬のことが……”
「……ううん。あたし、あの時起きたばっかりだから、なんにも聞いてないよ」
佐久間先生が言った、意味不明のあの言葉は“変なこと”としてカウントされるんだろうか。
あたしの中で言えば、当たり前のようにカウントされるんだけど……。
でも、敢えてカウントしなかったのは、
「そ、っか。ならいいの。変なこと聞いて、ごめんね」
―――― 見上げた柚乃ちゃんの顔が、泣き出しそうな顔に見えたから。
なんでそんな顔しているのと聞いちゃいけない気がして、あたしは横を向いて目をつぶった。
片手にある懐中時計の感触だけを、やけにリアルに感じながら、さっきできなかった考え事を始める。
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