危険ナ香リ


 ……続きに入る言葉はなんだったんだろう。


 飛鳥くんはあたしのことが、なんだって?


 痛む頭で考えても、答えはまるで出てこなかった。


 ……でも、チラリと自意識過剰なことを考えてしまった。


 飛鳥くんはもしかして、あたしのことを……?


 そこまで思った時点で、そんなはずないよね、と自分で自分の考えを蹴り飛ばした。




「葛西の家って、どっち?」

「あ、次の次の角を左に曲がって、そのまま道なり真っ直ぐ進んで、突き当たりを右にあるアパートです」

「詳しい説明ありがとよ」




 柚乃ちゃんの、家。


 会話を聞いて、考えることが自然と変わっていった。


 そういえば、柚乃ちゃんの家のこと、全然知らないなぁ。


 どんな家庭なのかも、どこに住んでるのかとかも、全然知らない。


 ……もう、1年以上も一緒にいるのにな。


 そう思うと、なんだか寂しい気持ちになった。




「ここでいいのか?」

「はい。あざしたっ」

「……ありがとうございましたって言え」




 呆れたような声が聞こえた後、柚乃ちゃんが車から降りた。




「じゃあね恭子。お大事にっ」




 そう言って笑う柚乃ちゃんの顔は、やっぱり泣きそうな顔にしか見えなかった。


 アパートの中に入っていった柚乃ちゃんの後ろ姿を見つめてから、また横になる。




「寝てろ。寝てたらすぐにつくから」

「……はぁい」




 言われるがままに目を閉じたあたしだったけれど、なかなか眠りに落ちることはできなかった。


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