危険ナ香リ
ただ、耳に残る佐久間先生が言ったあの言葉が、何度も頭の中で流れていた。
そのあとに続く言葉をまた考えていたけれど、やっぱり納得のいく答えはでてこなかった。
いっそ佐久間先生に聞いてしまおうかとも思ったんだけど、その度に柚乃ちゃんのあの顔が浮かんで、聞けなかった。
「清瀬、……寝てる?」
ゆっくり目を開けると、佐久間先生があたしの額に手をおいた。
保健室にいる時は冷たかったのに、今はこの温かい車の中にいた所為か、生暖かい手になっていた。
それでも、大きな手の感触にホッとする。
「ほら。家についたぞ。また部屋まで送ろうか?」
「……大丈夫、です」
風が冷たい、と感じた次には、頭がさらに痛くなった気がした。
そんな時、カバンを持たされて、不意に懐中時計を握っている手に触れられる。
「なんで学校までこれ持ってきてるわけ?」
見上げると、いつものような意地悪な笑顔じゃなくて……優しい顔をしている佐久間先生が見えた。
さっきも思ったけど、なんだか不思議な気分だ。
「……なんでだろ。分かんないです」
「分かんないって……。まあいいか。大事にしてくれてるんなら、それに超したことはない」
そう言って笑った佐久間先生が、今度はあたしの肩を掴んで玄関まで送る。
誰もいないから、あたしが鍵を開けると、佐久間先生はちょっと心配そうな目を向けてきていた。
「ちゃんと寝てろよ。あと、親がきたら病院に行け」
「はい」
「無理はするな。分かったか?」
「……はい」
本当に不思議な気分だった。
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