危険ナ香リ


 ただ、耳に残る佐久間先生が言ったあの言葉が、何度も頭の中で流れていた。


 そのあとに続く言葉をまた考えていたけれど、やっぱり納得のいく答えはでてこなかった。


 いっそ佐久間先生に聞いてしまおうかとも思ったんだけど、その度に柚乃ちゃんのあの顔が浮かんで、聞けなかった。




「清瀬、……寝てる?」




 ゆっくり目を開けると、佐久間先生があたしの額に手をおいた。


 保健室にいる時は冷たかったのに、今はこの温かい車の中にいた所為か、生暖かい手になっていた。


 それでも、大きな手の感触にホッとする。




「ほら。家についたぞ。また部屋まで送ろうか?」

「……大丈夫、です」




 風が冷たい、と感じた次には、頭がさらに痛くなった気がした。


 そんな時、カバンを持たされて、不意に懐中時計を握っている手に触れられる。




「なんで学校までこれ持ってきてるわけ?」




 見上げると、いつものような意地悪な笑顔じゃなくて……優しい顔をしている佐久間先生が見えた。


 さっきも思ったけど、なんだか不思議な気分だ。




「……なんでだろ。分かんないです」

「分かんないって……。まあいいか。大事にしてくれてるんなら、それに超したことはない」




 そう言って笑った佐久間先生が、今度はあたしの肩を掴んで玄関まで送る。


 誰もいないから、あたしが鍵を開けると、佐久間先生はちょっと心配そうな目を向けてきていた。




「ちゃんと寝てろよ。あと、親がきたら病院に行け」

「はい」

「無理はするな。分かったか?」

「……はい」




 本当に不思議な気分だった。


.
< 186 / 400 >

この作品をシェア

pagetop