危険ナ香リ
笑う力もないのに、なんだか勝手に顔が笑っていた。
真っ青な顔して笑うあたしは、どんなに不気味だっただろう。
でもそんなあたしを見て、佐久間先生も小さく笑っていた。
「早く治せよ」
頷いた後、佐久間先生と別れた。
バタンとドアが閉まると、あたしの顔から自然と笑顔が消えていったのが分かった。
「……はきそう……」
もう吐き出すものはなにもないのに、吐き気は一向に収まらなかった。
……病院に行って薬をもらったあたしは、それから3日間、家からでることはなかった。
珍しく風邪をひいたあたしに家族全員優しくしてくれた。
もしかして佐久間先生が優しかったのは、あたしが風邪をひいたからなのかもしれないと気づいた。
携帯には祐や柚乃ちゃんや美波先輩からのメールがきていたけれど、返せなかった。
3日間、あたしはベッドの上で過ごした。
「恭子。これ、祐から」
3日目の夜。
そう言ってお姉ちゃんがあたしに渡してきたのは、アップルパイだった。
きっと祐のお母さんが作ってくれたんだろうな、と思い感謝しながら、食欲が復活したあたしはアップルパイを一切れ食べた。
そしたらお姉ちゃんに1ホールの半分を食べられた。
……風邪が治った途端にこれだ……。
あの優しさはどこへやら、なんてことをこっそり思いながら、残りのアップルパイを冷蔵庫に入れた。
翌朝。
アップルパイは綺麗に消え去っていた。
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