危険ナ香リ
風邪引きへの優しさなんて、こんなものなのかな、と思いながらしょんぼりして朝を迎えた。
アップルパイを食べた犯人のお父さんとお母さんは、あたしを見て笑いながら謝った。
……こんなものなんだよ。
だから、きっと、佐久間先生もこんなものなんだよ。
はあ、とため息をはきながら靴を変えて学校の中に入る。
佐久間先生にまたお礼言わなきゃ。
ああでも、どうせまた意地悪になるんだろうなあ。
そんで、この間のこと、いっぱいバカにされちゃうんだ。
「あっ。恭子!」
教室に入って、まず最初にそんな声が聞こえた。
ようやく顔をあげると、なんだか、教室が懐かしく見えた。
「元気だった!?って、元気なら休まないよね。にしても、ちょっと痩せたように見えなくもないなぁ」
「し、心配かけちゃってごめんね。柚乃ちゃん」
3日ぶりに見た柚乃ちゃんの顔には、いつも通りの笑顔がくっついていた。
泣き出しそうだったあの時の顔の面影すら感じない、明るい笑顔だった。
「あと、メールしてくれたのに、返せなくてごめんなさい」
「あ。いいのいいの。また無事に恭子の顔が見れたから、いいの」
「……柚乃ちゃん……っ」
「恭子……!」
じーん、と感激したあたしに合わせるように、あたしの両手を包み込んで同じ顔をする柚乃ちゃん。
「なんのコントだ。これ」
柚乃ちゃんの後ろから、そう言って出てきたその人。
祐は、あたしの顔を見て優しく笑った。
「恭子、よかった無事で。俺はもう最悪の事態を予想して黒ネクタイまで用意して……っ」
「縁起悪いこと言うな!」
「あでぇ!!ひ、卑怯だぞ、柚乃!チョップ反対!暴力禁止!」
「今のは暴力ではなくツッコミだっつーの」
……ハイテンションだねぇ……。
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