危険ナ香リ


 “なんで、そんな顔してるの”


 そう聞く勇気があたしにはなくて、ただただ悲しい気持ちになった。


 ……教えてくれないのかな。


 そう思うあたしは、たぶん最低だ。


 自分で聞く勇気がないから、相手から言い出すのを、ただただ待ってる。


 最低だ、と思った。




「はい。数学と国語と化学と」

「わ、わっ。待って待ってっ。いきなりそんなに無理だよぅっ」

「じゃあ、とりあえず数学と国語ね」




 ばさばさと置かれたノートを一冊とって、めくってみる。


 けっこう書かなきゃいけないみたいだ。


 ページをめくる度に、なんだかため息をはきたくなった。




「……ねぇ恭子」

「うん?なぁに?」

「恭子は、祐のことが好きなんだよね?」




 いきなりそんなことを聞かれて、ビックリして反応できなかった。


 教室でそんなこと言わないで、とか、そんなことを口にしようとは思わなかった。


 だって、柚乃ちゃんの顔が、なんだか真剣だったから。




「……うん。好きだよ」




 だからあたしも真剣に答えた。


 周りが、うるさくてよかったと、心の中のどこかで思った。




「あたしは、恭子のこと応援するからね」

「……応援もなにも、祐にはもう」

「カノジョがいるからなんだってゆうのっ。奪っちゃいなよ」

「無理無理っ」

「やる前から無理って言っちゃだーめ。ほら、今から色目使ってみたら、アイツもその気になるかもよ」




 こんなに、あたしのことを応援する柚乃ちゃんは初めてだった。


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