危険ナ香リ




「は?“噂”?」

「そう。お前、安藤だよな」

「それがなんだよ」

「俺の周りで、今、お前人気なんだよ」




 佐久間先生の周り、といって思い出すのはやっぱり美波先輩だった。


 あと、柚乃ちゃんも思い出した。


 それはやっぱり、あの、保健室の会話が原因なんだと思う。




「どうゆう」

「あんまり女心を弄ぶのはどうかと思うよ。俺は、な」




 ……やっぱり、全然分かんないや。


 どうして佐久間先生が口元をあげて笑っているのかも、飛鳥くんが眉を寄せているのかも。


 あたしには、全然分かんない。




「……柚乃か」




 どうして、ここで柚乃ちゃんの名前が出てくるのか、不思議でたまらない。




「……で?清瀬は今から帰り?しかも安藤と一緒に?」




 なんで話が変わったのかすら分からない。


 ……なんだか、あたしだけ蚊帳の外にいるみたいで、嫌だ。


 寂しい。




「あんまり、他人に隙を見せるなよ」




 そう言った後“じゃあな”と言って通り過ぎていった佐久間先生を振り返ることはしなかった。


 ……隙なんか見せてないもん。




「……行こう。飛鳥くん」




 寂しくて、やけになって飛鳥くんの腕を掴んで早足で歩いた。


 戸惑う飛鳥くんの気持ちが、触っている腕から伝わるようだった。


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