危険ナ香リ
そんな飛鳥くんの気持ちよりも、自分の気持ちでいっぱいいっぱいなあたしは最低だ。
みんな知ってるのに、あたしだけ知らないような感覚に陥って、泣きたくなった。
1人ぼっちな気がして、寂しかった。
「清瀬」
「え。あ、ご、ごめんなさい」
下足箱のところまできて、ようやく手を離した。
離した途端、“あたし、なにやってんだろう”と恥ずかしくなった。
「別にいいけど……。清瀬は、佐久間とけっこう仲いいんだな」
「ち、違」
「どんな関係?」
どんな、って。
そんなこと言われても、答えは1つしかないって、分かってるくせに。
「普通に、養護教諭と生徒の関係だよ」
……抱きしめてられたり、舐められたりすることは外して考えれば、だけど。
でも、そんなことがあったって、教師と生徒に変わりはないわけだから、嘘はついてないもんね。
言い訳じみたことを思うあたしをチラリと見た飛鳥くんは、靴を履き替えた。
「ふぅん。そうは見えなかったけどな」
なんとなく、ドキッとした。
悪いことがバレた時みたいに跳ね上がる心臓を抑えるために、あたしは苦笑いをしてみせた。
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