危険ナ香リ


 ……それでも、理解したくないことって、ある。


 柚乃ちゃんがあたしに一度もそんなことを言ってくれなかったことを、理解したくなんかない。


 だって、そんなの、悲しいよ。


 まるで形だけの友達みたいで嫌だよ。




「あたしは、柚乃ちゃんにとってなんなんだろう」

「恭子……」

「友達だって思ってるのは、あたしだけなのかな」




 言っている内に、じわっと涙が浮かんできた。


 浮かんだ涙を零すまいとして、手を爪が肌に食い込むほどにキツく握った。




「……っ、あたし、柚乃ちゃんのこと、好きなのに……っ」




 たった1人になってしまった気がして、寂しくて寂しくて仕方がなかった。


 手を強く強く握っているのにも関わらず、ボロリと涙が零れ落ちたのを肌で感じて、慌てて拭った。


 だけど拭っても拭っても涙は出てきて、最後には拭うことをやめた。




「……柚乃にも、なにか事情があるんだよ」




 ふわりと、ニオイがした。


 ……祐の香りがした。


 顔を上げると、祐の指があたしの涙を拭いてくれた。


 あたしはその指の感触を感じて、




―――― 佐久間先生……。




 無意識に、先生の名前を心の中で呼んだ。


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