危険ナ香リ



 不思議すぎて理解するのに時間がかかってしまった。


 ぽかんと口を開け放ち瞬きすら忘れていたあたしを現実に引き戻してくれたのは、向こうから聞こえてきた生徒達の笑い声だった。


 そうしてあたしはハッとして、それから、サァッと顔を青くした。


 顔を青くしたのは、ようやく理解したからだ。




「なっ、何言って……!なんで先生の家に行かなくちゃいけないんですか!?」

「シーっ!」

「むぐっ」




 な、な、な!?


 なんであたし口ふさがれちゃってるの!?


 さっきの生徒の笑い声で近くに生徒がいると知っている佐久間先生は、そっちの方向を気にし始める。


 一方であたしは、さっきは感じられなかったタバコのニオイを、口をふさいできた大きな手から感じ取った。


 そのせいもあるし、なによりどうしたらいいか分からなくて、固まった。




「……やっぱ廊下はマズかったな。こっち来い、清瀬」




 返事もろくにできないまま、あたしは佐久間先生に引きずられるように保健室の中に舞い戻った。


 その間、ギッチリとモップを握りしめていた。




―――― パタン、とドアが閉められたと同時に、ガチャンッと鍵が閉まった音がした。




 そしてあたしはここで初めて身の危険というものを感じた。


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