危険ナ香リ


 祐の口から聞いたら、諦めようと思えた。


 祐の口から聞いたから、諦めようと思えた。


 ……ようやく、諦める覚悟ができた。




「え……?」

「だって祐見てたら分かるもん。祐、美咲ちゃんのこと大好きだって、顔に書いてある」

「う、嘘だ」

「本当だよ。……ねぇ、祐」

「ちょ、おい、鏡貸して、鏡」

「美咲ちゃんに、苦しい顔なんてさせないであげてね」




 なんでそう言ったのか、よく分からない。


 だけどきっと、理由は、飛鳥くんにあると思う。


 ……飛鳥くんみたいに、美咲ちゃんの苦しい顔とあたしの顔を、重ね合わせる人を出さないで欲しいのかもしれない。


 “あたしを通して、美咲ちゃんを見ないで”


 そう言えない代わりに、祐にそう言ったのかもしれない。


 祐は瞬きをしながらあたしの顔を見てくる。


 あたしは泣かないように、ずっと笑顔を保ったままでいた。




「しあわせに、してあげてね」

「……」

「泣かせたりしないでね」

「……ああ」

「学校で、キスなんかしないでね」

「え゛!?み、見て……!?」

「できれば、あたしの前で美咲ちゃんの話はしないでね」

「……え?」

「ノロケ話なんて、あたし、聞きたくないよ」

「恭子……」




 笑顔がだんだん崩れていく。


 早く、祐を家に帰そう。


 そうしなきゃ、よけいなことを口走りそうで、怖い。




「もうそろそろ家に帰った方がいいんじゃない?」

「……」

「イチゴタルト持ってくるから、玄関で待っ」




 突然、予想もしなかったことに、あたしは驚いて目を見開いた。




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