危険ナ香リ
祐の腕が、あたしの背中に回っている。
その腕はあたしを胸板に押し付けるように、強い力が入っていた。
祐のニオイが鼻をくすぐって、祐の温かさを全身で感じた。
抱きしめられている。
そう気づいたあたしは、すぐに祐の胸板を押した。
やだ。
カノジョがいるくせに、こんなの、やだ。
すっかり崩れた笑顔は、今にも泣き出しそうな顔へと変わっていたに違いなかった。
「……俺、」
「や……っ。離してっ」
「ずっと、恭子に言いたいことがあったんだ」
なにを言いたいのか、分かってしまった。
……そう思うあたしは、相当バカだった。
だって、“信じない”って、“冗談話”だって自分でそう言ったことを、実は心のどこかで信じていたことを表したことになるんだから。
「や、やだ」
それを聞いたら、諦められなくなりそうで、怖い。
聞きたくない。
聞きたくなんかない。
「俺、小学生の時から、恭子のことが」
「……っ」
目をギュッとつぶって、祐の腕の中で耳を押さえる。
そうすると、感じられるのは祐のニオイと、体温と、腕の感触だけになった。
そしたら、違和感を感じた。
「お、願……っ。離して……」
―――― 佐久間先生。
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